ひとつの光が、立ち止まった日
― 光の種の物語 ―
光は、今日、少しだけ立ち止まりました。
前に進むことが怖かったわけではありません。
後ろを振り返りたかったわけでもありません。
ただ、
「ここでいいのかな」
と、静かに思ったのです。
光は、ずっと歩いてきました。
星の道を、
風の中を、
まだ名前のない場所を。
誰かに急かされているわけでもなく、
何かを失ったわけでもありません。
それでも、
ときどき光は、自分の速さがわからなくなります。
立ち止まると、
世界は急に静かになります。
遠くで、誰かの声が聞こえている気がしても、
それが自分に向けられたものかどうかは、
光にはわかりません。
でも、不思議なことに、
立ち止まったその瞬間、
足元がほんのりあたたかいことに気づきました。
「ここにいてもいい」
誰かがそう言ったわけではありません。
でも、地面から、空気から、
そんな気配が伝わってきたのです。
光は、深く息をしました。
進まなくてもいい日があっていい。
決めなくてもいい時間があっていい。
何者にもならないままで、
ただ在るだけの光も、ちゃんと光なのです。
光は、今日も完全ではありません。
でも、
完全でない光だからこそ、
世界にやさしく触れることができます。
もし、あなたが今、
少しだけ立ち止まっているなら。
それは、迷っているからではなく、
あなたの中の光が、
「今」を確かめているだけなのかもしれません。
光は、また歩き出すでしょう。
でも今日は、
この場所に、
小さな光の種を残していきました。
きっと、必要なときに、
誰かの足元を、そっと照らすために。
この物語は、
「光の種」という世界の、ひとつのかけらです。
すべての物語は、
“光のはじまりの場所”から、ゆっくりと続いています。

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